2007年アカデミー外国語映画賞のドイツ映画「善き人のためのソナタ」を観た。
主人公ヴィスラー大尉は旧東ドイツの国家保安省(シュタージ)の職員で、家族もなく、職務に忠実で、感情のかけらも表情に出さない。孤独な堅物といったところか・・・。(ちなみにシュタージは、10万人の職員、17万人民間の協力者がいたとされる秘密警察)
ヴィスラーは、成功すれば出世という前提で、芸術家ドライマンを監視する。国家に忠実な主人公がヘッドフォン越しで知る監視相手の豊かな会話・西側の国の本・上司の卑劣な行動etcによりおきた心の変化。それと対照的に、どんな時代や状況でも変わらないのが、余計な事を言わず背筋を伸ばし良心に従って生きる主人公の高潔さ。
このタイトルの「善き人のためのソナタ」に関しては、監視される側のドライマンがこれをピアノで弾き「この曲を本気で聴いた人は悪人になれない。」という台詞が印象的で、これはこの作品のエンディングの付箋となっている。
このエンディングでのヴィスラーの「 This is forme これはわたしの本だ」の台詞と小さいながら晴れ晴れとした表情は圧巻。
たった20年前の監視国家の恐ろしい真実を描きながら深く感動的な余韻を残したなんとも素晴らしい作品だった。
このヴィスラー大尉を演じたウルリッヒ・ミューエ自身が彼の女優である妻により、10数年間自らの行動を密告され国家保安省(シュタージ)の監視下に置かれていたという。そんな彼がこの作品で逆に国家保安省(シュタージ)の職員を演じたというのは驚く。そう 実人生で彼はドライマンだったとは・・・。
そしてなんと 私がこの作品を映画館で観たのと同じ2007年7月22日、ドイツ東部ザクセン州で胃がんのため54歳で亡くなったそうだ。残念としかいいようがない。御冥福を祈ります。
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